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【日記】ヤンキーとサラリーマンのブレイキングダウン

電車に乗っていると、目の前にヤンキーっぽい人が座った。

本人としてはヤンキーと呼ばれるのは不本意かもしれないが、この文章ではその人のことをヤンキーと呼ぶことにする。

僕はそのときマンガを描いていたのだが、
「なるほど、こういう服装を描くとヤンキーっぽいんだな」
と、スケッチしたくなったので、ちょくちょくヤンキーの方をチラ見していた。


しばらくすると、ヤンキーが大胆に脚を伸ばした姿勢で寝た。

それだけならいいのだが、イヤホンからアップテンポな曲が音漏れしていた。

音漏れとはいえかなり音量が大きく、車内で死にかけのツクツクボウシが鳴いてるみたいな不快感があった。

車内はそこそこ人で埋まっていながらも、ヤンキーの隣の席は空いていた。
が、新しく電車に乗ってきた人たちは皆、その空席をチラッと見て
「あっヤンキーの方がいらっしゃるんですね自分大丈夫です・・・」
みたいな顔で、ヤンキーと離れた位置で立つ流れができていた。

とある駅で、流れを断ち切る猛者が現れた。

たぶん30歳くらいの、スーツ姿の男性で、スマホを見ながら歩いていたのでヤンキーの存在に気づいていたのかはわからないが、ともかくヤンキーの隣に腰を下ろした。
この文章ではその猛者のことをサラリーマンと呼ぶことにする。


僕は「あのサラリーマンは大音量の音漏れの隣で大丈夫だろうか・・・」と心配していたのだが、しばらく眺めているうちに、心配の意味合いが変わってきた。

スマホを眺めるサラリーマンの眉がどんどん吊り上がり、口元が震えてきた。



目の前で喧嘩が始まりそうな緊張感の中、僕は
「なるほど、怒った顔の人間の顔ってこうなんだな」
とスケッチしていた。

と、そのとき、車内に「ガンッ!!」という音が響いた。

サラリーマンが思い切り床を踏みつけ、ヤンキーを威嚇した音だった。

ヤンキーはというと、寝ていた脱力した姿勢のまま、目だけをサラリーマンの方に向けていた。

サラリーマンは変わらずスマホの一点を見つめていたので目は合っていなかったが、ともかく戦いのゴングは、サラリーマンの足によって鳴らされた。



止まらない音漏れ、下がらない眉、すれ違う視線・・・

耐えかねたサラリーマンが次に足を鳴らすときが打ち合いの始まりか・・・?
などと思っている最中、ヤンキーが立ち上がった。

車内の興奮と緊張が最高に高まる中、ヤンキーは電車からスッと降りていった。

目的の駅に着いたらしい。


サラリーマンの表情も元に戻り、1分後には車内の緊張感は消え去った。
野次馬気分だった僕も、なんだかんだで安心した。

……

ふと、「そういえばあのヤンキーは、自分が音漏れしてたことに結局気づけたのだろうか」と思った。

音漏れは自分だけで認識するのは難しいから、たぶん足癖の悪さにキレられたと感じたんじゃなかろうか。
そう思うと、あのヤンキーに対して、裸の王様みたいな不憫さを少しだけ感じた。

あのサラリーマンは床を踏みつけるくらいの覚悟を持った猛者だったわけだが、その覚悟がありながら口頭で注意できなかったのはなぜか、を想像してみる。

もし自分がサラリーマンの立場だったら、「優しく言おうとして逆ギレされたらめっちゃ嫌だし怖いな」と思った。

ヤンキーに対する恐れの気持ちがあるからこそ、心の距離を保ちつつ相手にメッセージを伝えようとしたときに、逆に遠回りで攻撃的な手段を選んでしまうのかもしれない。


自分の、iPad pencilを持つ筋肉の少ない腕を見て、弱いことによって得してきたこともあったのかも…と思った。

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秋野ひろ
僕が有名になった後「秋野ひろは俺/私が育てた」と公言できるようになります。

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