秋野ひろ

マンガ家。コルクインディーズ。描きたい感情、描いたマンガのアーカイブ、日記に使いがちです。

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マンガ家。コルクインディーズ。描きたい感情、描いたマンガのアーカイブ、日記に使いがちです。

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記事一覧

『フシのボタン(1万字)』

『I novel』(星新一風2次創作)

とびだせ!落書き!!(絵)

『竹撮りの翁』(306字)

【日記】屋上の賞味期限

『良 いなか』(1840字)

『フシのボタン(1万字)』

【男 Ⅰ】  ちょうどよかった。  癌の告知をされたときは、そう思った。  今のおれにあるものを考えた。妻と娘がいた。大学を出てから働き続けている職場があった。だが妻子とは五年前から別居している。理由ももう忘れてしまった。きっと小さなすれ違いだろう。連絡の取り合いすらほぼ無く、家族というよりは血の繋がった他人に近かった。仕事には真面目に取り組んでいたが、それも真面目であるだけで、決して積極的ではない。生計を立てるため、あるいは仕送りという形だけでも家族とつながるために、しが

『I novel』(星新一風2次創作)

N氏の心の中には、いつも一冊の絵本があった。 昔、保育所で一度だけ読んだ本。主人公の冒険物語だ。 その内容はN氏の小さな世界を無限に広げた。綴られる言葉の1つ1つが、N氏の小さな胸を躍らせた。 それからの彼が経験した劇的な出来事は、全てその本に重ね合わせた。大きな岐路に立ったときは、その本の主人公になりきって選択を下した。 N氏はその六十余年の人生を、そうして歩んできた。特別華やかではなかったが、十分N氏の納得にいくものだった。今年定年退職したN氏には、その老後を費やして成

とびだせ!落書き!!(絵)

先日「 #土曜絵画 」とハッシュタグを付けて載せてみたところ、絵に関しては、ツイッターよりnoteの方が多くの人に見てもらえることがわかったので、また過去の作品を上げます。 今回は「立体的に見せられるように頑張ったシリーズ」です。 手と消しゴム。消しゴムは普通の消しゴムです。 妖怪の図です。 中学生の頃描いた、登場人物が全て学校の先生のバトル漫画(恥ずかしくて高校に入ってから全て読めたことは一度もない)です。この表紙が…⤵︎ 靴箱の立方体に沿わせて貼ったコピー用

『竹撮りの翁』(306字)

時は平成。竹取りの翁と呼ばれている者がおりました。野山に立ち入っては竹を取り、多くの竹細工を作っていました。 ある夕暮れのことです。翁は近いうちに誕生日を迎えるお婆さんの為に、上等な竹を探していました。切り倒した数本の竹を背負い、そろそろ帰ろうかと腰を上げたその時です。ふと前を見ると、なんとそこには光り輝く一筋の竹があるではありませんか。 翁はすぐにポケットからスマートフォンを取り出し、それを撮影しました。ツイッターへ投稿しようと思ったからです。撮った竹も綺麗でしたが、実物に

【日記】屋上の賞味期限

高校生になれば、屋上には自由に出入り出来ると思っていた。ジャンプ漫画の中で何度も読んだ。だが現実は甘くはなく、立ち入る機会すら与えられなかった。 誰もが夢見て諦める。高校の屋上とはそういう場所ではないだろうか。 僕は今日、その屋上に登ることが出来た。これはその記録。苦難と勇気の物語である。 屋上に入る難しさを知ったのは1年の終わりの頃だったと思う。 体育の授業に一回分の空きが出来て、その時間をクラスごとに自由に使っていいことになった。場所も、教室の他にグラウンドや体育館の使

『良 いなか』(1840字)

「ええ御守りやんか。祈年祭で売っとってもおかしくないくらいや。ありがとうな」 そう言って田沼先輩が笑った。無人精米機から出て来たばかりの上白米のような、輝くように白い歯を見せる。 「そんな…喜んでもらえて嬉しいです。受験、絶対合格して下さいね」 私は胸の前で両手を握った。先輩もそれに合わせて、ガッツポーズをしてくれる。それを見て、喉に餅が詰まったような気分になった。手をそっと胸に当てる。先輩の合格を願う気持ちは嘘じゃない。だけど、大学が決まれば先輩はこの村を出て行ってしまう。